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過剰なる週末



諸君
フォーカス4号であります。

高度経済成長末期から数年
わたくしの育った大阪南部は社会のひずみが集約されたような街でありました。

湾岸部からは工場から毒々と排煙が噴出し光化学スモッグが発令、運動場に赤い旗がポツンと置かれている。近所の染め物工場からは意味不明の廃液でドブ川がピンク色や紫色に染まり湯気が立ち込めている。鉄工所からは鉄粉がまき上がり電話線のような削りカスが道路まではみ出している。
酒屋ではオッサン達が昼間から飲んだくれてはドブにはまって大声でわめく、ヤクザの家が燃える、夫婦げんかでパトカーが来る、野良犬の群れがいる、廃屋に人が住んでいる。
米屋のオッサンのごっつい自転車の音が怖い、顔も怖い、すぐに戦争の話をする。

そんな中でも子供達は環境に適応し、どんなものにも遊びを見い出し笑い飛すことができるのでありました。今思えば大人達は本当の危険のみを注意し後は何も言わず子供たちを放置していたような気がするのであります。
子供達にとって、ここまでやると危険だという判断はとても重要なことであり、その判断はいろんな経験などから子供たち自身が自ら行うもので、それが学びの場でありました。

だが今現在はどうだろうか。
親が過剰に子供に干渉しているのではないだろうか。
環境は改善され情報が溢れても、いつの時代でも子供の本質はあまり変わってはいない。
段差で子供がこけるとすぐに親が駆けつけ傷の手当てをするよりも
子供自身で立ち上がりそこに段差があることを学ぶ事が重要ではないだろうか。


さて諸君
わたくしが10歳くらいの頃
近所にスクラップ工場があり壊れたテレビから丸い磁石を取り出す行為が流行したのであります。
より大きい磁石を持つ者こそがキングの称号を与えられ尊敬に値するものであります。
スクラップ工場には高いフェンスがあり2匹のドーベルマンが長いロープでつながれている。
そこでわたくしは綿密なリサーチを施し作戦を考案。
日曜日は工場のオッサンはいない、ドーベルマンは何でもすぐに食べ尽くす。ドーベルマンはフェンスの上までは来れない。以上の点を考えるとやはりフェンス内部への侵入は危険すぎる。そこでもう一人仲間を引き入れフェンスの外部からロープを使ってかぎ針などでテレビを引っかけて吊るし上げる作戦を決行。
一人は囮となりカールカレー味をドーベルマンに与える。その隙にわたくしがフェンスの上に登りテレビを引っかける。だがなかなかうまく引っかからない、カールがなくなりそうだという報告を受け
た頃、ようやく引っかかったが吊るし上げるにはかなりの重量だ。いったんテレビを着地させ相方を呼び2人で引っ張り上げる。ドーベルマンがギャンギャン吠えまくる中、テレビがフェンスを乗り越えて外部の地面に落下、粉砕、歓喜の雄たけび!ヤッター。
2人でテレビをかついで近くの小屋の裏まで逃走。石でテレビをカチ割り磁石の奪取成功であります。
その後も何回か成功したりうまく引っかからずに失敗したりを繰り返したが磁石の流行の喪失と共にその行為もしなくなるのであります。

今でも遠くで犬が吠えていると
磁石を手にした時を思い出し心ときめくのであります。

  • 2017年01月14日